July 11, 2024
チャットボットは、最初は簡単な会話を実現する技術から始まり、Siriのような高度なパーソナルアシスタントに発展し、さらには最新の大規模言語モデルであるChatGPTに進化してきました。このチャットボットの歴史を追って解説します。人間が日常的に行うコミュニケーションや知能レベルを機械が模倣する難しさを理解した上で、身近なタスクや業務効率向上のためにこれらの技術をどのように活用するかを検討しましょう。
奥深いチャットボットの歴史、チャットボットの技術はどう進化してきたのか?ChatGPTを生み出すまでの軌跡


1950年:コンピューター科学の先駆者「アラン・チューリング」が提唱する “Can machines think?”



1950年にアラン・チューリングが“Computing Machinery and Intelligence.”という論文を発表しました。論文には、「コンピューターは人間のように考えることができるのか? “Can machines think?” 」という議論に対して、機械も人間のような思考や学習が可能であることを証明するために、チューリングテスト(イミテーション・ゲーム)という実験を行いました。チューリングテストとは、相手が人か機械かをわからない状況下のチャット形式で人間がコミュニケーションを行ったもので、実験から半世紀後には70%の確率で人間は、会話の相手が機械か人間かわからない状態になると記述されています。


1966年:初のチャットボット、イライザ(ELIZA)が登場

1966年にマサチューセッツ工科大学(MIT)の教授であるジョセフ・ワイゼンバウムが、歴史上初のイライザ( ELIZA )というコンピュータプログラムを開発しました。ELIZAは、セラピストという位置付けのチャットボットで、人間の精神科医を模倣したシンプルなテキスト文章で会話できるチャットボットです。チューリングテストの初期段階のテストモデルとされています。プログラムとしては、データベースに入力された対応内容と一致することで応答する仕組みです。ELIZAは、「パターンマッチング」と「置換方法論」を利用して、テキスト入力したユーザーの会話の意図を理解しているかのような応答を定型的に回答する仕組みを利用しているため、人間と会話をしているような感覚に感銘を受けたユーザーが当初は多くいました。しかし、ELIZAは、複雑な質問をすると会話が破綻してしまうという点が課題として残りました。以下はELIZAとの会話例です。


Hello, I am Eliza. I'll be your therapist today.
こんにちは、私はエリザです。今日はあなたのセラピストを務めます。


How long have you been feeling down today?
今日から気分が落ち込んでいるんですか?

almost all day I need to take a good rest
ほぼ一日中、ちゃんと休む必要があります

I'm not sure I understand you fully.
私は完全にあなたを理解できるかどうかはわかりません。


1971年:PARRY パリー

1971年、スタンフォード大学で人工知能を研究していた精神科医、ケネス・コルビーKenneth Colbyは、コンピューターが人間の脳の思考を理解して、精神疾患の治療に役に立つのではないかと考え、PARRY(パリー)という統合失調症を持つ人間の思考を模倣したとされるコンピュータープログラムを開発しました。PARRYの目的は医学生が患者の治療にあたって、事前に訓練する教材としてPARRYが役立つと考えており、PARRYはチューリングテストに合格した最初のチャットボットとして認識されています。1973年にセラピストであるELIZAと統合失調症の患者の側面をもつPARRYがICCCで会話をした時は、大いに話題を呼びました。
1980年 Racter

生成AIの先駆者として、William Chamberlain(ウィリアム・チェンバレン)とThomas Etter(トーマス・エッター)によって1980年代初頭に開発されました。Racterは、現代の自然言語処理やAI言語モデルが実現している、コンピューターによる自動生成を実現しています。Racterはコンピューターによって生成された画像やテキスト等を載せた形で公開されました。


1988年 Jabberwacky(ジャバワッキー)


独学でプログラミングを学んだ英国人Rollo Carpenter(ロロ・カーペンター)がJabberwacky(ジャバワッキー)をつくりました。「楽しく、面白く、自然な方法での通常の人間の会話」を再現するように設計されたJabberwackyは、数千人のオンラインユーザーがインプットした情報を学習し、蓄積されたデータベースから応答できる現在の機械学習のAIチャットボットに近い技術を適用しました。2008年には、Jabberwackyから派生し、人工知能型のアルゴリズムを使用した「Cleverbot(クレバーボット)」が登場した。人間の会話から学習するように設計されており、Wikipediaによると、これまでに1億5000万以上のユーザーが利用しています。


1992年 Sbaitso(スベイツォ)

シンガポールを拠点とするテック企業、Creative Labs(クリエイティブ・ラボ)AI音声チャットボットDr. Sbaitso(ドクター・スベイツォ)を開発しました。Dr.Sbaitsoは、Sound Blaster Acting Intelligent Text to Speech Operatorの頭文字から命名され、Text to Speechテキストから音声出力ができる心理学者のAI音声チャットボットでした。応答には「なぜそのように感じるのですか?」など理解できない場合は「それは私の問題ではありません」といった返しをしていたため、複雑な相互作用が欠けていました。Creative Labsとしては同社が販売するカードの音声PR
を目的として作られたのですが、音声AIチャットボットが注目を集めました。

1995年 ALICE(アリス)


1995年にRichard Wallace(リチャード・ウォレス)によって開発されたALICEは、ELIZAのより進化したバージョンとして登場しました。女性との会話を模倣するALICEは自然言語処理(NLP)の技術が適用されており、ELIZAと比較して、より洗練された会話を実現したALICEは画期的でした。コードはオープンソースとして公開されているため、開発者が会話を利用しやすい状態にされています。


2001年 SmarterChild(スマートチャイルド)


2001年、AppleのSiriの先駆者として知られているSmarterChild(スマートチャイルド)は2006年にMicrosoftに買収された、インスタントメッセージチャットボット開発会社であったActiveBuddyによって構築されました。SmarterChildは、百科事典の知識をインプットしており、2000年代初頭には、3,000万人以上の人々がSmarterChildを米Microsoftの「MSN Messenger」および米Time Warner傘下America Online(AOL)の「AOL Instant Messenger(AIM)」とリアルタイムで情報交換での友達リストに追加するほど人気でした。


2006年 IBM Watson

2006年に登場したIBM Watson(ワトソン)は、IT大手IBMが手がけたAIで クイズ番組Jeopardy!の質問に回答するために開発された人工知能です。Watsonは、高度な自然言語処理、情報検索、知識の共有や表現、推察や推論、および機械学習の技術を適用できるように構築されています。アラン・チューリングが提唱した議論「コンピューターは人間のように考えることができるのか? “Can machines think?” 」に結論を出すかのように、2011年、Jeopardy!の人間のチャンピオンであるケン・ジェニングス(Ken Jennings)とブラッド・ラッター(Brad Rutter)を撃破してチャンピオンとなり、100万ドルを獲得しました。


2010年 Siri 初のAIパーソナルアシスタント


Siriは、2010年に開発されたモバイル端末やパソコン周辺機器を販売しているAppleのiPhone等に搭載されているパーソナルアシスタント機能の「Siri」が登場しました。Siriは友達のように、タスクの手助けをしてくれる世界初のパーソナルアシスタントでした。電話、アプリ、カレンダー、検索、ナビゲーションなど様々なデバイスの機能と連携をしており、様々なコマンドを実行できるパーソナライズされた人工知能として人気となりました。


2012年-2014年 AIアシスタント Google Now、Alexa、Cortana


Siriに続くように、GoogleもGoogle Nowを2012年Android 4.1(Jelly Bean)に搭載して発売しました。Google Nowの進化として新しいインテリジェントパーソナルアシスタントであるGoogle Assistantをリリースしました。GoogleAssistanatはデバイスで家に設置するGoogleHomeで徐々にAIが家庭に普及することになりました。続くように、2014年にAmazonによってAlexaがリリースされました。AlexaもGoogleAssistanatと同様に家庭に設置されるAIとして普及が進みました。2015年にMicrosoftによって開発されたCortanaがリリースされました。Alexaと同様に、自然言語処理が可能で、質問の回答にBing検索エンジンが使用されています。


2016年 Facebook Messenge(フェイスブック メッセンジャー)


FacebookはMessengerを利用した企業のチャットボットのプラットフォーム「Bots for Messenger」を発表しました。Facebookのチャットボットは、Messengerを介してユーザーとやり取りし、キーワード認識と事前にプログラムされた返信を使用して顧客の質問に答える自動化されたコンピュータープログラムです。Facebookのボットはウェブサイトのチャットボットと同様に機能しますが、ユーザーはFacebookビジネスページを持つ企業にメッセージを送ることでのみアクセスできます。Facebookのメッセンジャーボットがきっかけで、問い合わせ対応にチャットボットを導入検討をするきっかけとなりました。


2021年ChatGPT

ChatGPTは、2015年に米国サンフランシスコにて設立されたOpenAI社が開発した大規模自然言語処理モデル(LLM)を用いたプロダクト名です。テキストで入力されたプロンプトから滑らかな言語でより人間らしいテキストを生成するように設計されています。ChatGPTは、会話生成や多言語翻訳など、特に法人ビジネスでさまざまな業務タスクに活用できることが期待されています。大規模自然言語処理モデルは膨大な量のデータで訓練された機械学習の学習済みデータを利用しているため、入力するユーザーからの事前知識が詳細になくてもテキストを生成したり、コードの問題解決したり、画像生成など新しい情報生み出すことができます。アラン・チューニング「半世紀後には70%の確率で人間は、会話の相手が機械か人間かわからない状態になるという予測」があっていたかのうように、人と会話しているかのような対話を実現しています。


歴史を紐解いていくと、現在何気なく触れているAIアシスタントや問い合わせ窓口に設置されているチャットボットの会話を実現することがどれだけ高度な技術を要するのか理解できるかと思います。チャットボットの業界はまだ技術進化の途中と言えます、自社に必要なチャットボットがどういったものなのか用途や導入目的を明確にして適用技術などを加味した上で検討することが推奨されます。

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